先月のことである。
高知に意気揚々と向かっていった私は、深夜バスの苦しさに耐えきれず朝からスパで体を休めていた。
そして湯から上がり休憩室で漫画でも読もうかと思ったときに、ふと一冊の本が目に入ったのである。
それが『野武士のグルメ』であった。
孤独のグルメの久住先生と食事と任侠を掛け合わせた作品を多く手がけた土山先生がタッグを組んだ漫画である。
読み始めると孤独のグルメとはまた雰囲気が違った一人で食を楽しむ描写に私は惹かれた。
そしてその中でも、主人公が古びた町中華に入りタンメンに対する美学を心の中で述べながらタンメンを美味しそうにすするシーンがとても強く印象に残ったのである。
今までのブログでばれていると思うが、私は物語に出てくる食事描写に多大な影響を受ける人間である。参照↓
そしてそれは今日においても強く発揮された。
8月30日午後7時、私は鶯谷駅の前にいた。
卒論とかオフ会とかが明日からは目白押しであるが、今日は大して用事がなく夕飯を何にしようかと迷いながらチェックインを終え、とりあえずと駅の方向へ向かった。
そこで見つけたのだ。
いかにも昭和からやっていそうな古さを感じさせるが、同時に活気に満ちあふれている素晴らしい町中華を。
それを見た瞬間、あの高知で読んだ『野武士のグルメ』が私の全脳を電撃戦のごとく制圧してきた。
「ああ、野菜たっぷりのタンメンが食べたい」
そんな思いだけが噴出し、私は中華料理屋へと足を踏み入れたのである。
入って一息ついてからタンメンを注文した。
すぐさま野菜が炒められる。
ジューという音と野菜が焼けるほのかな匂いが漂ってきた。
同時並行で面が茹でられる。
茹で上がった麺が、平ザルによってすくい取られ器に盛られた。
私は平ザルが好きだ。古い人間だと思われるかもしれないが、平ザルでしっかりと湯切りされた麺こそがスープによく合うと信じているから。
そんなことを考えていたら、セットされたスープと麺の上に炒められた野菜が乗せられた。もう完成のようである。
そして遂に、完成品がやってきた。
先ずはスープから。
複雑でしっかりした味が伝わってきた。
これは美味いタンメンだ。
野菜を食べてみる。
野菜の強みであるシャキシャキさを失っていない、素晴らしい炒め加減であった。
もうこの時点で天にも昇るような気持ちである。
麺を啜る。
細くスープの味と絶妙に絡む中華麺だ。
完璧であった。完璧なタンメンだった。
一緒に頼んだ餃子と交互に食べていたら、まるでキング・クリムゾンを食らったかのように一瞬で両方ともなくなってしまった。
ああ、次に食べるタンメンはこの店を超えられるだろうか。まあなかったらまた茲にくればいいか。
そんなことをしみじみと思いながら、幸福感に包まれて店を出た。
ごちそうさまでした。
タンメンは美味しい。
今日私が学んだことであり、人生の哲学に刻み込まれることだろう。
こういう気づきと出会いこそ、人生を豊かなものにしてくれるのだと信じて。
それではまた。
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